【物理で殴る】コオリッポ【単体考察】

最近の趣味は釣りです。どうも檸檬茶です。
今回はちょっと真面目にポケモンを考察してみたいと思います。

ポケモンの紹介

さっそくですが主役の紹介です。タイトルにある通り、今回の主役はこちらです!

ブースターは写り込んだだけです。

 

コオリッポです!

登場当初は"波平ペンギン"という愛称で親しまれた、愛くるしい氷タイプのポケモンです。
ステータスはこんな感じ。

ステータス 数値 数値
アイスフェイス ナイスフェイス
HP 75
攻撃 80
防御 110 70
特攻 65
特防 90 50
素早さ 50 130

ぶっちゃけ"めちゃくちゃ強いステータスのポケモン"ってわけじゃないんですけど、このポケモンが注目されたのは、唯一無二の特性、"アイスフェイス"によるものがあります。

アイスフェイス 『アイスフェイス』のフォルムの時、物理技を受けると、ダメージを受けずに『ナイスフェイス』にフォルムチェンジする。天気が『あられ』になると、再び『アイスフェイス』にフォルムチェンジする。(ポケ徹さん参照)

この特性によって、『はらだいこ』を実質無償で積む→素早さ130で上から殴るという動きが話題になりました。また、ダイマックスの天候変化とシナジーがあり、"上手い人が使うと強いポケモン代表"と言っても過言ではない破壊力を持っていました。まあ後に離島から持ち込まれた強者による環境破壊の餌食になるんですけど。

さて、本記事はそんなコオリッポの考察です。

なぜコオリッポなのか?

なぜコオリッポをチョイスしたのか。それはズバリ...

"可愛い"、"愛くるしい"

からです!

 

見てくださいこの可愛らしい見た目!

かわいい!!!!!

よちよちついて来るんですよ!可愛い!

かわいい!!!!!!!!!!!

そういえば、水棲ポケモンは水上でも連れ歩きをすることができます。ペンギンポケモンということは水上も動けそうですよね!どうなるんでしょうか......。

浮いた......

えっ......

そうはならんやろ......

いや、そうはならんやろ......。

そうはならないのよ、ポケットモンスター。物理学を学んでくれ......。

ということで緊急企画いきます!

準備1. 何を明らかにしたいのか

さて、"そうはならんやろ!"と言っても、次の事項を明確にする必要があります...。コオリッポのデータ?いえ、違います。

"何を明らかにしたいのか"

これです。これが一番重要。科学する時に一番時間をかけてこだわるべき点です。

ここで大切にしたいのは、なぜ私が"そうはならんやろ"と思ったか。
コオリッポは水に入ったら浮きました。しかし、一般的にペンギンはこんな浮き方はしません。つまり、この頭の氷があるから浮いたと考えるのが一般的でしょう。水面に浮いているということは、浮力と体重が釣り合っている状態であるということになります。私はそこに、"そうはならんやろ"と思いました。イメージとしては、体に風船を付けて浮いているような感じでしょうか。これ、氷がかなりの量ないと水に浮かなくないですか......?


では次に。ここで、本当に"そうはならん"のかを示す方法を考えます。これは簡単です。この浮いているコオリッポにどんな力が働いているのかを分析すれば良いのです。

ということで、
何を明らかにしたいか
→浮いているコオリッポにどんな力が働いているのかを分析したい!

となります。次に行きましょう!

準備2. データ収集

さて、今回使いそうなデータをまとめましょう。

今回知りたいのは、浮いているコオリッポに働く力です。そう、浮力です!

ここで、浮力について簡単に説明します。浮力といえば、『水に沈むと働く浮く力』というイメージがあるかと思いますが、厳密にいうと、ある液体の中に別の物質があるときに、その"別の物質"に働く、重力に逆らう方向の力になります(気体中でも働きます)。例えば、ヘリウム風船が浮くのなんかも原理は浮力と同じです。

この記事では浮力が大事なので、浮力の計算のためのスライドを用意しました!

このような原理から、浮力は押しのけた水に働く重力と同じ大きさの力と説明されます。
もう少し説明を加えましょう。

つまり、コオリッポに働く浮力を計算するには、

  • コオリッポの沈んでいる部分の体積
  • コオリッポの重さ
  • コオリッポが浮いている水の密度

が必要になります。

さて、浮力について説明したところで、知りたいデータは次のようにまとめられることが分かります。

  • コオリッポ(両フォルム)
    • 体長(体積を求めるのに必要)
    • 体重
    • 密度
  • コオリッポの氷
    • 大きさ
    • 重さ
    • 密度
  • コオリッポが浮いている水
    • 密度

こんな感じでしょうか。両フォルムのデータが必要なのは、コオリッポの氷のデータをとるためです。

大きさと体重はポケモン図鑑に載っています。確認してみましょう。

アイスフェイス

ナイスフェイス

体長も体重も同じなんですね。これを踏まえて、コオリッポの大きさを測っていきましょう!どこまでで1.4mかが分からないので、ポケモンHOMEを使って他のポケモンと比較してみました。

ニドキング(1.4m)とピクシー(1.3m)との比較(不要なところをカットしています。)

ということで、ナイスフェイス時のアンテナを含めた長さを1.4mとしましょう。また、ポケモン図鑑の内容として、計測項目ごとにフォルムが異なるのは不自然なので、この89.0kgというのもナイスフェイス時の値としましょう。

以上の前提から得られた計測値をまとめたものがこちらです。

アイスフェイス時の測定結果

ナイスフェイス時の測定結果

このままでは計算が面倒くさすぎるので、次の図のように"近似"します。
(近似とは: ちゃんと考えると複雑だけど、ぶっちゃけそこまでこだわって計算しても仕方ないところを削ぎ落として考えやすくする操作。この近似の仕方に計算者のセンスが出る。)

コオリッポ近似モデル

これだと分かりづらいので、もう少し分かりやすいように図を書き直しますね。

わかりやすい

実測ではコオリッポの氷は前が厚く後ろが薄いようです。しかし、これだと考えづらいので、上から見たときの胴体の軸と氷の軸を揃えて考えます(後述、考察-浮力の計算方法について)。また、計算が難しくなってしまうと嫌なので、楕円をベースに近似しました。

次に、測り得ない情報を仮定しましょう。以下に羅列します。

仮定.

  • コオリッポ本体の密度は一定(骨や筋肉など(あれば)により均質ではないが、計算を簡単にするため)
  • コオリッポの頭の氷は純水を凍らせたもの(天候『あられ』で作られるため)で、密度は  0.917 g/cm^3
  • コオリッポが浮いている水は海水(写真撮影場所が"凍てつきの海"なので)で、密度は  1.03 g/cm^3

最後に、作成した近似モデルを使って解く問題を明確にしましょう。

コオリッポモデルを用いた問題設定

問題. 足から h m の高さまで海水に沈んで浮いているコオリッポに働く力を分析する。

力を分析する!

(ここから計算パートです。数式を見てアレルギーが出る方々のために、何をしている数式なのかだけでも分かるように書きます。ちなみにこの章は読み飛ばしても大丈夫です。)

浮いているコオリッポに働く力は、重力と浮力だけです。他は考えません。
つまり, 計算して導出する必要があるものは次のようになります。

  • 氷を含めたコオリッポの重さ: (m_a'+m_w')
  • 沈んでいるコオリッポの体積: V_w

氷を含めたコオリッポの重さ

図鑑に載っているコオリッポの重さはナイスフェイス時、つまり氷が無い状態のものでした。浮いているコオリッポには氷があるので、氷の重さを加えなければなりません。氷の密度は仮定したので、氷の体積を求めれば (m_a'+m_w')が計算できそうです。
 (m_a'+m_w')は浮いている何か(コオリッポ)の全体の重さですが、 m_a' m_w'は、水面から上と下で分けた重さなので、 (m_a'+m_w')が和の形をしていることとは関係ありません。)

さて、氷の体積を求めます。
氷の体積は、氷の直方体から頭と胴体を引いて導出しましょう。

コオリッポの氷の体積の計算1

問題となるのはコオリッポの胴体側の体積の導出です。胴体も頭も楕円球で近似したので、楕円球の組み合わせで計算できます。

最初に、頭と胴体の結合部分について考えましょう。結合部分は面なので、その結合面の、楕円球の中心からの距離が得られればよいでしょう。楕円の公式に当てはめれば導出できます。

コオリッポの氷の体積の計算2

ということで計算していきます。これはサクッと積分します。

コオリッポの氷の体積の計算3

これを計算することで、コオリッポの氷の体積が  481500 cm^3、氷の密度を掛けて重さが 442 kg、全体重は 531 kgと導出されました。重すぎんか......。

沈んでいるコオリッポの体積

次に水面下 hm までのコオリッポの体積を求めます。これは、コオリッポの足元から高さ h m までの体積を hの関数で表すことで得られます。

コオリッポの体積(高さの関数)

これで、 h m 沈んでいるときの体積が次のように求まりました。 VはVolumeの Vです。 V_1は氷の外側、 V_2は氷の外側が沈んだ上での氷パートです。

 V_1(h) = 0.196 (h - \frac{h^3}{2.323}) ~~ (0 \leq h \leq 0.71)

 V_2(h) = 0.756 h - 0.440 ~~ (0.71 <  h \leq 1.41)

コオリッポを浮かせる!

さて、これでコオリッポにかかる重力と浮力(体積)の計算が終わりました。比較をしていきます。

まず、浮力と重力が釣り合っているとき、浮力の説明の式から、
(沈んでいる体積)=(コオリッポの重さ)/(水の密度)
となります。この値は、(コオリッポの重さ)/(水の密度)を計算して、0.5151 m^3となります。

そして、浮いている画像を見る限り、胴体は完全に水に浸かっているようですね。完全に水に沈んでいる、氷の外側の体積を計算してみましょう。

 V_1(0.71) = 0.196 (0.71 - \frac{0.71^3}{2.323}) = 0.0968 m^3

まだ水に沈んでいる体積より小さいので、やはり氷が無いと沈みそうですね。次に、頭の氷を考えていきましょう。
沈んでいる必要がある体積0.5151 m^3から既に沈んでいることが確認できている胴体の0.0968 m^3を引いて、沈んでいる氷の高さと体積の関係式と結びます。

 0.5151 - 0.0968 = V_2(h)

この方程式を解いたとき、h0.71 \leq h \leq 1.41の範囲に入っていれば、コオリッポは無事に浮くことができます。これよりも大きければ氷が足りない、小さければ氷が反物質であるということになります。

 h = 1.14 m

いい数字が出ましたね!図示するとこんな感じでしょうか!

浮いたああああああ!!!!!

 

結果

Q. そうはならんやろ!

A. なっとるやろがい!

考察

今回、計算をしていて気になった点があるので、それを回収していきたいと思います。

コオリッポ本体の密度

コオリッポ本体の密度を見てみましょう。この結果次第では、今回の計算が徒労であるということになります。というのも、もしもコオリッポ本体の密度が水以下なら、それは計算するまでもなく浮くということになります。

コオリッポ本体の体積:0.1445 m^3

重さが89kgなので、コオリッポが均質(密度が一定)であると仮定しているので、密度は0.616 g/cm^3となります。ちなみにこれは参考値なのですが、乾燥させた木材と同程度の密度です[1]。氷が無くてもぷっかぷかじゃねえか!
ちなみに、人体の密度は1.05 g/cm^3程度[2]のようです。コオリッポ、何でできているんだ.......。

コオリッポの体の安否について

浮いているコオリッポに働く力についてもう少し考えます。力には圧力という概念があり、力が働く面積で割ることで定義されます。イメージとしては、ピンピールで踏まれると痛い(小さい面積に体重がかかり、圧力が大きい)とか、スキー板を履いていると雪に足が沈まない(面積を大きくして分散しているので、圧力が小さい)とかです。

さて、浮いているコオリッポの首にかかる圧力がとんでもないことになっているのでは、と思い設けたこの章ですが、結論から言うと不要だったようです。本当は首にかかる圧力でも求めてやろうかと思っていたのですが、体の密度があまりに小さいため、浮いているコオリッポには、氷を押し上げる方向の力が働いていることが分かりました。つまり、これはコオリッポが氷にぶら下がっているのではなく、コオリッポが氷を持ち上げているということになります(それはそれでヤバいのですが)。まあ陸上で 400 kgオーバーの氷の頭を振り回すような首を持つコオリッポには造作もないことでしょう。

真面目な補足

ここでは、記事には出てきたけど触れなかった話をまとめます。(難しいと思ったら読み飛ばしても問題ないです。)

" g"について

浮力の説明の画像に出てきた gについて紹介します。これは、重力加速度と呼ばれる数値です。値としては、 9.8 [m/s^2]ということになっていますが、今回は相殺されるため計算には使用していません。地球上では、質量にこの数値を掛けることで重力という力(重さ)に変換することができます。(厳密な話をすると、"質量"と"重さ"は違います。"重さ"とは、地球上での重力の大きさです。皆さんが体重計や量りなんかで量れるのは"重さ"で、直接"質量"を量ることはできません。この記事では、物理学徒に怒られる覚悟をもって"質量"の意味で"重さ"という言葉を使っています。そこまで厳密な議論をしても仕方ないのでね。)

これは本当に余談ですが、この重力加速度を物理定数と言わなかったのは、地球上でも場所によって重力加速度が違うからです。これには、地球が自転しているため遠心力があること、地球が完全な球ではないことが関係しています。ちょっとお高い体重計では住んでる国を設定することがありますが、それはこの重力加速度による誤差を少なくするためです。

浮力の計算方法について

読者様の中には、浮力の働く面の大きさを考える必要はないのか、と思われる方がいらっしゃることが予想されます。それについて補足します。

結論から言うと、今回はその必要がなくなるような仮定、近似をしています。それは、胴体の軸と氷の軸を合わせていることです。
胴体の軸と氷の軸を合わせることで、中心軸対称の力のモーメントが無視できることから、鉛直方向の力のみで考えることができるようになります。コオリッポ本体を均質とした仮定もこれを助けています。本記事では、手計算で解ける範囲で解きたかったため、教科書でよく見るような質点の運動で考えられるような近似をしました。

先ほどの計算で胴体が木材並みに軽いことが判明してしまったため、剛体力学(質点ではない力学)的に考えると、頭より先に胴体が浮いてきてしまうことが予想されます。

水と氷の密度について

この記事では、水と氷の密度をそれぞれ具体的な数値で仮定しました。実は水(氷、H2O)は、温度によって密度が変化します。一定じゃないのです。一応水の密度は 1g/cm^3ということになっています。1リットルが1kgと言った方が身近でしょうか。というか、これを基準に単位を作った時代があったのです(これは余談ですが、温度(摂氏)についても水の融点と沸点を基準に決められていますね)。

実際には、水は4℃くらいで密度が最大に、つまり一番重くなります。そしてなんと、固体になる(凍らせる)と膨張する"珍しい"特性をもつ物質です。製氷皿で氷を作ると表面が膨れるあれ、実はほとんどの物質では見られない特性なんですね。ろうそくの表面は凹みがちですが、寧ろあれが普通なんです。
しかし、密度が決まらないと計算のしようがないため、今回は上記のように仮定しました。

おわりに

コオリッポの単体考察でした。今の剣盾のランクマッチ環境、よっぽど刺さっていない限り一般ポケモンの採用は難しいと思います。潜ってすらいないので知らないんですけど。

こういう世界観をぶち壊す考察は、中学生時代だか高校生時代だかに読んだ空想科学読本を思い出します。数学や物理を知った身としては、こういう遊びなんかも悪くないですね。

コオリッポは草むらでのエンカウントだった気がしますけど、シールド持ってないからよく知らないんですよね。さて、次はどんな"釣り"をしましょうか......。

参考

[1] ものづくりWEB 材料の密度一覧: https://d-engineer.com/metal/density.html
[2]人体密度ならびに体脂肪量の年令別推移について: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs1949/23/1/23_1_46/_pdf




校正の私「それよりもコオリッポ、頭にあんなでかい氷つけたら息できなくないか?」