【バレンタインデー】カカオ豆からチョコレートを作ってみた

2月14日はバレンタインデー。人々は想い人に愛を込めて、はたまた社内の方への社交辞令でしょうか、多くの人々がチョコレートを手に取ることでしょう。バレンタイン商戦の最中、デパートのショーケースには華やかな化粧箱と鮮彩な包みが並びますが、それでも腕によりをかけてキッチンに立つ方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、そんな無垢な恋する乙女に水を差す、こんなフレーズを聞いたことがありませんか?

「"手作りのチョコレート"って、市販のチョコを溶かして固めただけでしょう?」

うーん、本当に嫌な言葉ですね。まず、その発想が貧相だと思います。誰かを想って買い出しをして、キッチンに立つ。それだけで、どれだけ尊いことか。自分で作ったものを、絶対に悪く見られたくない、失敗したくない人に渡す。その勇気を見下せる神経がわかりません。


...なんて御託を並べたところで、その言葉を放つ人は何もわかってはくれないでしょう。

ならばお見せしましょう。本当の地獄を!!


この記事では、チョコレートをカカオ豆から作っていきます。簡単な目次をば。

はじめに

チョコレートの材料は、大きく分けて3つです。

これらの分量でチョコレートの種類が変わります。今回は、カカオ60%~70%のチョコレートを作りたいので、"カカオマスココアバターとココアパウダーの総重量が"全体の6~7割になるようにミルクと砂糖の量を調整します。

Tips -カカオ豆の呼称について-

カカオ豆は、状態や部位によって呼び方が変わります。以下に羅列します[1]。

Tips -チョコレートの種類-

チョコレートの『カカオ〇%』というのは、チョコレートの重量に占めるカカオ分(カカオマスココアバター、ココアパウダー)の重量で決まります[2]。一般的なチョコレートはカカオ35%~40%程度で、その中でもミルクチョコレートは乳原料が多く入ったチョコレートです。なお、ホワイトチョコレートカカオマス、ココアパウダーを含まず、カカオの実の油脂であるココアバターのみをカカオ成分として含みます。『ホワイトチョコレートはチョコレートではない』という言説は、このカカオマスとココアパウダーが入っていないことに由来します(僕は、ホワイトチョコレートはチョコレートだと思います)。

ということで、主にこの材料から作っていきます。どれもスーパーかネットで買えるものなので、計画的に購入しましょう(記事の最後に僕が買ったリンクを載せておきます)。

材料

今回使用する材料はこちらです。

これでカカオ分がおよそ60%のチョコレートができます。ちなみに、砂糖とスキムミルクの量は、過去の経験から決めました。括弧書きがある理由は、生カカオ豆を焙煎して殻を剥くと量が減るからです。カカオ豆を処理して残ったカカオニブの重さを元に再計算します。

作り方

チョコレートを作る流れを簡単に紹介します。

  1. 下準備
    • カカオ豆を洗って乾燥させる
    • ココアバターを細かく刻む
    • 粉類(粉糖とスキムミルク)をふるっておく(カカオ豆を処理すると必要な重さが変わるので、準備するのは後でいい)
  2. カカオ豆を焙煎する
  3. 焙煎したカカオ豆の殻と胚芽を取り除く(カカオニブ(胚乳)を抽出する)
  4. カカオニブをすり潰す(カカオリカーにする)
  5. カカオリカーを湯煎しながらココアバターを入れる
  6. 滑らかになったら、湯煎したまま粉類を入れてさらに混ぜる
  7. よく混ざったら、テンパリングをして型に入れる
  8. 冷蔵庫で冷やして完成

こんな感じです。案外簡単に終わりそうじゃないですか?1ヶ所だけ用語で誤魔化したので、それについてのTipsを入れてから、いざ実践です!

Tips -テンパリング

テンパリング(tempering)は、金属の"焼き戻し"の意味を持ちますが、これから転じてチョコレートを固める時の調温作業のことを指します。よくTVなどで見る、大理石の上でチョコレートを搔き回している"あれ"です。家庭では、湯煎したり水に浸けたりしてテンパリングをします。
チョコレートも油脂(ココアバター)から出来ているので、冷やすとその油脂が固まるわけですが、この時の結晶構造(固まり方)は6種類あります[3]。そして、美味しいチョコレートに適した結晶構造は、その6つのうちのたった1つです。物質が固まる時は固まるための"核"となるものが必要ですが、物質全体の結晶構造(固まり方)は、その核の結晶構造に依存します。だから、美味しいチョコレートを作るには、チョコレートに適した結晶構造を持つ核を作ってやればいいのです。これら6つの結晶(結晶構造)は固まる温度が違うため、一度温度を下げてチョコレートに適していない結晶構造を作り、再び温度を上げて、チョコレートに適していない結晶構造の核を溶かすことで、美味しいチョコレートに適した核だけを生成することができます[4]。
このテンパリングによってできる結晶は、人肌で溶ける程度の融点を持つ上に結晶の粒が細かいため、口溶け滑らかなチョコレートになります。

実践

ということで材料を買い集めました。カカオ豆はマダガスカル産です。

こう見ると材料は少ないですね

1日目

まずはカカオ豆を洗います。カカオ豆は油分が多いので、油分が溶け出さないように冷水で洗います。

Oh! れもちゃさん カカオ豆の汚れwash...キレイキレイネ...

カカオ豆は、かなり酸味がある匂いがします。洗って濡らすと、その匂いをしっかりと感じることができます。

乾かします

焙煎も一緒にしちゃいたいならオーブンを使ってもいいかも。今回は豆をしっかり乾燥させてから煎りたいので、時間をかけます。特に急ぐ理由もないですし。

カカオ豆が乾かないと作業が進められないので、今日はこの辺で終わります。

2日目

カカオ豆が完全に乾いたので、カカオ豆を焙煎します。今回はフライパンで焙煎しますが、オーブンを使って焙煎することもできます。その場合は、120度で20分程度です。

弱火です。

この工程は、チョコレートの風味を決めるのにすごく重要な工程になります。例えば、豆を焦がしちゃうと焦げ臭いチョコレートになります。

アルミホイルは邪魔だったので外しました。

パチパチと音がし始めたら、もう少し炒って焙煎は終わりです。1Kの部屋すべてがカカオ臭くなりました。今回使っていないフライパンからもカカオ臭がしてきます。ちなみに、このカカオ臭は甘い匂いではなく、カカオ豆の酸味と香ばしさが混ざった匂いです。いい匂いではない。

カカオ豆が冷めないと作業にならないので、今日はこの辺で終わりにしましょう。

3日目

カカオ豆が冷めたので、殻を剥いて胚芽を取り除いていきます。しっかり炒ってあると、殻が比較的剥きやすい状態になっていると思います。

2時間オーバーの作業もブログだと写真1枚の成果です

袋の重さを量りわすれた

殻を取り除いたカカオ豆(カカオニブ)の重さは174gでした。他の材料の計算の都合で、今回は160gとして考えます。

平日帰宅後の作業の進捗なんてこんなものです。ここからは本当に体力勝負なので、今日はこの辺で。

4日目

ココアバターは湯煎で溶かすような使い方をするので、使う前に細かく刻んでおきます。

ココアバターは油脂なので、開いた牛乳パックを使うと楽

100g買ったら100gちょっと入ってるよね

100gちょっとありますが、実際に使うのは80gくらいの予定です。

カカオ豆をすり潰していきます。

すり鉢を使います

ミルを使わない理由ですが、カカオ豆は油分を多く含むことから、すり潰すと下の写真のようにすぐに目が詰まってしまうからです。カカオ豆専用のミルなんてものもあるようですが、そんなものは持っていません。序盤に軽くフードプロセッサーを使うのはありだと思います。やりすぎると、カカオ豆の油脂でモーターに負荷が掛かりすぎるとか。使わない理由は、持っていないからです。

カカオ豆は厄介なんです

すり鉢で擦るには量が多いので、細かくなった粒子を篩で分けながら作業を進めます。

これでも粒子は大きい方なんですよね...

3時間ほど作業しましたが、疲れたのでこの辺で終わりにします。

篩にはまだこんなに残っています

篩の中に見える塊は、豆の油分で粉が固まったいわゆる"ダマ"のようなものです。すり鉢の壁にへばりついた粉を落とすと、この"ダマ"になります。

5日目

3時間程度カカオ豆をすり潰しました。

6日目

カカオ豆を湯煎で温めます。

そしてすり潰します。

油分が出てきてチョコレートらしくなってきましたね

7日目

湯煎してすり潰します。

8日目

こんなに頑張ってきましたが、すり鉢ですり潰すのは限界があります。すり鉢の目よりも細かくなることはない、ということです。もっとも、この作業はチョコレートの滑らかさを左右する大事な工程のため、製菓メーカーなんかだとデカい機械で数日単位ですり潰します。だから、チョコレートを生業にしていない人間がご家庭レベルでできるレベルは高が知れています。適当に見切りをつけて次に進みましょう。

さて、もう疲れたので、次の工程に進みます。次の作業からはすり鉢だと大変なので、容器を変えます。他の材料を混ぜてテンパリングをするので、ボウルに移しました。

ガラスである意味はあまりないですが、熱が伝わりやすいといいかも

ここに、ココアバターを入れていきます。

カカオリカーの半分の量です

湯煎しながら混ぜていきます

見た目はチョコレートですが、めちゃくちゃ苦い。

ちなみに、このカカオリカーが思ったよりもシャバシャバだったので、水が混ざったかな?とヒヤヒヤしていました。冷蔵庫で冷やしていたココアバターが結露していた?とか考えています。取り越し苦労だったようですが。(備忘録)

並行して、粉糖とスキムミルクを量ります。

粉糖はココアバターの8割

スキムミルクココアバターと同量

カカオリカーとココアバターがしっかり混ざったら、この粉類も混ぜていきます。篩った写真は撮っていないです。

粉類は数回に分けて混ぜます

これがしっかり混ざったら、やっと市販の物を買ってきて湯煎で溶かしたところと同じラインに立てます。ちなみに、クオリティは市販物を溶かしたものの方が上です。

スタート地点です

テンパリングをしていきます。悠長に写真を撮っていられる作業ではないので、最初だけお見せします。

温度計を突っ込んでテンパリング開始

今回は、温度を50度くらい→26度で2分くらい→33度としました。湯煎で温めて、氷水で冷やして、また湯煎で温めるというのを、2口のコンロに氷水のボウルと湯煎用の鍋をセットしてやりました。温度を見ながらずっと混ぜ続けるので、これだけでも一苦労です。ちなみに、コンロ2口でやるのは距離が近くて都合は良かったですが、コンロ周りがびしゃびしゃ毘沙門天になるのでオススメはしないです。

テンパリングが終わったら、モールド型に流し入れて作業終了です!

作業終了!長かった!

型に流し入れたときに零れて固まったチョコを食べた感じだと、どうやらテンパリングは成功していそうですね。よかった。

そして、型に入らなかったチョコは生チョコにでもしようかなって思っています。(追記: 生チョコにしました。本編の後に"おまけ"パートがあります。)

型に入らなかったやつ。量ったら160gありました。

 

実食

型を冷蔵庫に入れた翌日の夜。うきうきで帰宅した僕は、そっとその包みを取り出します。固まっていることを確認し、アルミホイルの上に型をひっくり返しました。

めっちゃ綺麗...

見た目には光沢もあって、すごく綺麗です。表面が滑らかなので、テンパリングも上手くいっているようです。これはチョコレートです。僕の1週間の努力の結晶です。

早速ひとつ食べてみます。口当たりがいかつい、カカオ感が強いです。もう少しココアバターが多くても良かったかもしれないです。冷蔵庫から出したばかりにしては口溶けも悪くないです。

人に渡すトッピングをするなら、溶かしたホワイトチョコなんかを細い絞り袋で絞っても綺麗かも。

これは成功と言ってもいいでしょうね。お疲れ様でした...。

反省と振り返り

今回の結果を元に工程を振り返ってみます。これは、僕含め後続者のために残しておきましょう。

  • 材料について。カカオ感が強く出ることを考えると、ココアバタースキムミルクを少し増やしてもいいかもしれない。ただ、カカオ豆から作ったと主張したいなら、カカオ感が強いのは得なのでこれでいいと思う。生クリームを少しだけ混ぜるのもありかも。
  • 道具について。すり鉢を用いたが、カカオの細かさの限界を感じた。乳鉢を試したい。しかしその分、作業時間が増えることを覚悟する必要がある。
  • 日を跨いで作業することが多かったため、カカオリカーを放置して中断し、固まったカカオリカーを湯煎で溶かしてから作業を再開することが何度かあった。これは、別に悪く働いたとは思わない。ただ、固める時には容器の壁に広く張り付けるようにして固めておいた方が、溶かす時間が短くて済む。
  • すり鉢から容器を移したのは良かったと思う。ただし、湯煎などで曇った側面から水が入る可能性があるので、そこはかなり注意する必要がある。料理用ヘラも扱いやすかった。
  • テンパリングについて。温度の推移は良かったと思う。撹拌し続けることが大事との記事を読んだのでやってみたところ、大変ではあったが成功したと見てよさそうな結果が得られた。

おわりに

今回は、バレンタインデーということで、生カカオ豆からチョコレートを作ってみました。作ってみました、といっても、実はこうしてカカオ豆からチョコレートを作るのは今回で4回目なんです。過去3回はいずれも大学生の頃の話ですが。大学生だとこの時期は春休みで日中すら暇なんですよね。改めて今やってみると、やはり時間がかかるし、気力が持たないです。決して軽いノリでできることではなかったですね。

もちろん、市販のチョコレートから手作りのチョコを作るのも、軽いノリでできる話ではないんです。企画してレシピを調べて買い出しして実行するというその気持ちこそが尊いものです。『溶かして固めただけで手作り』なんて言わず、そのお相手の気持ちそのものに対して、もっと真摯に向き合うべきです。というか、それ以前に、市販のチョコレートよりも前の工程からチョコレートを手作りしようなんて、そんな酔狂なことは物好きが自分のためにやるようなことです。間違っても他人に強いるようなことではありません。この記事をここまで読んでくださった方なら、それに異論は無いと思います。

この記事も、バレンタインデーの熱が冷めないうちに出せたら良かったんですが。どうにも道具が揃わなくて少し出遅れてしまいました。でも3月14日にはホワイトデーもありますので、それまでに出せたしまあ良しとしましょう!


至る所に甘味が並ぶこの季節、ぜひ皆様も甘い一時をお過ごしください。

参考文献

[1] 月島食品QMS公式サイト: https://tsukishima-qms.jp/
[2] 明治HP Q&A: https://qa.meiji.co.jp/faq/show/132?site_domain=default
[3] KEK: チョコレートを美味しくする物理: https://www.kek.jp/ja/newsroom/2013/02/12/1000/
[4] 古谷野哲夫: チョコレートの結晶学: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj/56/5/56_319/_pdf

購入元

リンクが生きています。ご注意ください。

おまけ: 生チョコ作り

余ったチョコレートを使って生チョコを作りました。

材料など
  • チョコレート(上の残り) 160g
  • 牛乳           88g
  • ココアパウダー     適量
  • 参考 George ジョージ:【概要欄に補足あり】バレンタインに勝ちが確定する生チョコ|牛乳で作る手作りチョコ簡単コーティングのレシピ: https://www.youtube.com/watch?v=uyNIjhD_8jI

 

作り方
  1. チョコレートを湯煎する
  2. 牛乳を温める
  3. 混ぜて冷やして終わり!

型は牛乳パックを縦に割ったものを使いました。

できた生チョコがこちら!

簡単生チョコ!

とても美味しかったです!口当たりが良くて滑らかで、それでいてカカオ感がしっかり出ています。トッピングにココアパウダーを振ってもいいかもですね!